ぜんまいウサギは人参の夢を見るか

【ぜんまいウサギのこと】
ゼンマイうさぎは夢をみる。
魔法で空を飛ぶためにはダイエットを、と言われても遺伝子組体操人参はやめられない。
人参に手を伸ばせ、ない?
「何故巻く」
ゼンマイを巻かれ夢から醒めた。
「嫌?」
嫌に決まって、決まって?
もしもそうなら背中のゼンマイは何故か。
再び世界が動き出す。

【可哀想のこと】
可哀想だとヒトは言う。
首を傾げて解せぬ素振りのうさぎのゼンマイをヒトは巻き直した。
誰かの気紛れで何度も生を繰り返させられるなんて。
ゼンマイうさぎは尚更不思議な顔をする。
それはヒトとて同じ事。死んで再び生まれ変わる。
記憶を失くさぬ我らの方がヒトより少しはマシだろう。

【止まるのこと】
もしもゼンマイを巻いてくれる人がいなかったならどうする?
僕が質問するとゼンマイうさぎは「止まるだけだ」と涼しげに言う。
怖くない? 何が? 止まることが。
誰にも求められぬ世界で生きる方がこわい だ ろ
止まってしまった彼のゼンマイを、僕は急いで巻きあげた。

【コタエルのこと】
寒いね。
僕の言葉にゼンマイうさぎは、「外は0度だ」と頷く。
寒さはコタエルな。そう言うと僕にお茶を勧めた。
寒さが分るのかと驚くと、感じないと答える。
でも今コタエルって。
不思議がると、「お前は寒さが辛いだろう?」そうだけど。
ならば、コタエルな。
お茶はとても温かかった。

【眠り姫のこと】
ぜんまいウサギの眠り姫。
世界に愛想を尽かして眠る。
ある時ぜんまい巻いたのは上から目線の王子様。
再び自ら眠る姫。
私好みの王子様だけ私を起こして構わない。
気づかない。
姫の好みの王子様は決してぜんまい巻けない事に。
押し付けがましい男など大嫌いな姫はひとり人参の夢をみる。

【歯車のこと】
誕生日に歯車が欲しいと言うので歯車屋に案内して貰った。
お前のセンスで選んで欲しい。
僕は幾千の歯車と対峙する。金いやいぶし銀も捨て難い。
すると「ククッ」とぜんまいウサギは笑った。
「どうしたの?」「嬉しくて」
まだ買ってもいないのに?
っていうかそれ嬉しい笑いじゃないよ。

ぜんまいウサギが胸の扉を開けると秩序よく回る歯車が見えた。
僕の贈ったいぶし銀の歯車をそこに加えて満足気なウサギ。
ぜんまい式だし歯車は必要だよね。
そう言うとウサギは笑った。
それは違うし違わないな。
何それ。
歯車が動かしているのはココロだけだ。だから歯車は贈り物がいい。

歯車は回る。ココロを動かす。
歯車が増える。ココロは更に複雑に動く。
錆びた歯車では、ココロは上手に動かない。
壊れた歯車では、ココロは止まる。
自分で手に入れた歯車よりも、誰かに貰った歯車の方が、ココロを広く、大きくさせる。
同じだろう?ぜんまいウサギは僕に言った。

【磨くのこと】
ぜんまいウサギはココロの歯車を磨く。
極上の油に上質の布。
人の心は一体何で磨くのだ。尋ねるウサギ。
決まってないから面倒なんだ。僕らはそれを探してる。
凄いな。どこまでピカピカに出来るか天井知らずという事だ。
僕は胸に手を当てた。
いつもより少し心が明るくなった気がした。

【止まるのこと】
止まりそうになる度、僕は聞く。
「巻き直した方がいい?」
って。その度、君は答える。
「どっちだっていい」
って。事も無げな表情。
いつだって心配してそわそわして巻き直すのは僕ばかりだ。
「君なんか止まっちゃえ」「そうか」「そうだ」「そうだな」
ぜんまいウサギ、君はズルいよ。

【後悔のこと】
ぜんまいを巻き直す僕はその度に後悔する。
君なんか止まってしまえばよかったのに。
くだらない八つ当たりをぜんまいウサギは涼しげに聞く。
ならば次回は巻かぬことだ。
ウサギは正しい。勝手に巻いているのは僕だ。けれど。
僕にもぜんまいがあれば良かった。あれば良かったのに。

【ココロのこと】
最近ココロの調子が悪い。
ぜんまいウサギは胸の中身を点検する。
原因はいぶし銀の歯車。
磨けども錆は落ちず上手に回らない。
このままならばやがて我は止まるだろう。止まることなど構わない。けれど。
止まってしまうのは我だけなのか。
ウサギは外套を纏い機械仕掛の扉を開けた。

【正解のこと】
ぜんまいウサギが扉を叩く。
どうしたの?と僕は問う。
どうしたらいい?とウサギは返す。
いつだって君はそうだ。いつだって選ぶのは僕の方。
正解なんかはいらないのにね。
欲しいものは、君が選んだ君の答え。
けれどそんなの教えない。
表情の読めない彼の胸から、歯車の軋む音がした。

【滅亡のこと】
ねえ、世界終わると思う?
ぜんまいウサギに尋ねると、終わるよと言った。終わらぬものなど無いって。
そりゃそうだけど。
それじゃ世界が終わるなら何がしたい?何もしない。何も?
いつか壊れるそのいつかが今日だと何か都合が悪いのか?
悪いよ。だって君の事もっと知りたいじゃない。

【贈り物のこと】
ぜんまいウサギが歯車をくれた。
僕は歯車式じゃないよと言うと、知っているって。
ウサギの気持ちは解らないけれど、緻密に装飾を施された歯車はとても綺麗で僕は嬉しくなった。
大切にするよ。ウサギは満足そうな顔。
カチ。
歯車式でもない僕の何かが動いて温かく、とても温かくなった。

【年末のこと】
ぜんまいウサギのココロはぜんまい式。
けれど実は星エネルギー式でもある。
貴方のくれる甘く美味しい星の全てが次の話への動力にガガガ。
「ぜんまいウサギ、どうしたの?」「違う電波が」
「星エネルギー式って何?」「知らぬ」
「電波障害?」ガガガ。

ご愛読&お星様を有難う。感謝。

【新年のこと】
あけましておめでとう。
挨拶する僕にぜんまいウサギは、何の祝いかと尋ねる。
新年の祝いだよ。
時は不変だ。区切りがあるんだ。
区切り?
新しい気持ちになれるよ。
ウサギは考える。
人は何度もリセットできるということか。
羨ましそうな顔。
ねえウサギ。忘れたい過去が、君にはあるの?

【淋しいのこと】
ぜんまいウサギも寂しいと死んじゃうの?
徒な質問にウサギは、多分ないと答える。
そして続けた。
もしもそうなら素晴らしいな。
どうして?
孤独な世界で生きていたいと思うのか?
そうならよかった。
呟くウサギの眼に映る青空を眺めていたなら寂しくなった。
僕もそうならよかったのに。

【忘れたいのこと】
忘れたい事があるの?
ぜんまいウサギに尋ねると、ない、と即答する。
辛い記憶があるのかと思ってた。
それならあるとウサギは言う。
そして続ける。
辛い記憶は忘れるべきか。
だって誰でも。
忘れなければならぬと言うなら我は辛くて構わない。
ウサギの記憶に住まう誰かが羨ましかった。

【さいかいのこと】
ゼンマイうさぎと長らく会っていない。
会わずにいたならうさぎのことを考える時間はどんどん減った。
薄情な自分を軽蔑してみたりもしたけれど。
街で偶然君を見かけた。
カチ。歯車式ではない僕の止まっていた何かが動き出す。
君を忘れられるはずなどなかった僕の喜びと安堵と悲しみ。

ゼンマイうさぎに気づかれぬようそっと隠れた。
うしろめたさに脅かされる。僕は期待してたんだ。
僕にも誰にも巻かれることなく、君がたったのひとりぼっち で止まってしまっていることを。
僕だけが君を目覚めさせ僕だけが君を眠らせる。
ねえ、君は誰にそのゼンマイを巻いてもらったの?

【転がるのこと】
ゼンマイうさぎが目の前を通り過ぎる。
コロン。歯車が落ちた。
以前君に貰った僕の美しい歯車が、追いかけるように転がりそしてぶつかって止まる。
「これはお前の物か?」
突然の再会に驚く様子もなく君は歯車を差し出した。
お前の物かって悪い冗談。
ねえ、うさぎ。君は僕を忘れたの?

【忘れるのこと】
「ねえ、待ってよ」「お前の物ではないのか?」「誰の物だかわからないの?」
ゼンマイうさぎはもう一度歯車を観察し首を傾げた。
「お前の物でないのなら失 礼した」そんな。
「僕のことを忘れたの?」
「忘れてなどいない」天国。そして。
「元々知らぬものは忘れられないだろう」地獄。

【あの歯車のこと】
差し出された歯車をどうしても受け取れなかった。
それは僕の歯車で、けれども僕の歯車ではない。
あの日、君が僕にくれたあの美しい歯車は、君と僕と、二人の大事な歯車だった。
だから。
君の知らないその歯車は僕のものじゃない。
僕の何をも動かせないその歯車は僕のものじゃない。

【少しだけのこと】
美しい。我であれば大事な誰かに贈るであろうそんな逸品にココロが騒ぐ。歯車が誘う。
誘惑になど乗らない我が耐え切れず胸の扉を開けた。
秩序よく回る歯車たちの列にこの歯車を加える。カチ。
回りだした歯車が我を勢い良く温め始めた。驚いた。我のココロは極端に冷えていたのだ。

【思い出すのこと】
温まるごとに動き出す何か。カチ。温まるごとに思い出す何か。カチ。
この胸の歯車のことを。そしてお前のことを。そうだ、ああそうだ。
わかることが増えた。そしてわからぬことも増えた。
どうしてお前はこの歯車を知らないなどと言ったのか。どうして我を知らないなどと言ったのか。