ナラの箪笥

またあの子だ。毎日のように家具屋へ訪れる幼い少女はいつも同じ箪笥を開ける。
立派なナラの洋服箪笥。彼女が帰ったその後で僕も同じように開けてみた。
そこにはドングリがいくつか。それからザワリ、風が吹く。
昔すみかにしていたナラの木を見つけた。人間は怖い。けれど会いたい。

ナラの箪笥は気づいていた。
あの子が昔、自分の洞にいたリスであると。
フワフワ尻尾をフワフワ髪に。うまく化けてはいるが大きな門歯は隠せない。
思い出し て。リスの囁きにも懐かしいどんぐりにも気づかぬ素振り。
はやくお帰り。
もうあの頃のようには守れないこと、箪笥は知っていた。

ナラの木がいない。
リスの姿で気配を辿れば人のすみかへ辿り着く。
人の子がいた。自分がドングリを置いたように何かを並べている。
花のようだと思った。 赤、白、黄色。
美しく飾られたナラの木と人の子の穏やかな時間に背を向け、リスは森へと帰る。
どんぐりひとつ、窓辺において。