仕立屋

今日は雨が降るかもしれないって。それならコートを作ろうかしら。雨を装う水玉模様に雨に負けない青空模様。雨を彩る紫陽花模様は葉っぱで蝸牛が動く仕様。この街で、手に入らない素材はないの。それってつまり、望んだ全てが服になるってそういう事よ。
貴方は何をお望みかしら?

コート作りで1日が終わる。雨は客足を遠ざける。明日は晴れて。こういう時は神頼みだ。今日のコートの切端で作ったてるてる坊主を軒先へ下げる。電車が走る布、星が光る布、小鳥の止まる布。
せっかくのコート、晴れたら買いに来てくれるかなぁって晴れたらコートいらなくない?

今日も雨。軒先のてるてる坊主が申し訳なさそうに揺れる。元々それ程お客が多いわけでもないし、気にしないで。このお店、中央区の結構わかりにくい路地にやる気なく開いてるものだから、来客よりもメール注文が多いのよね。今日のご注文を確認確認。
「恋が叶う服お願いします」
結構多いのよこういうの。個人的には色恋に服なんてって思うのよ。だってどうせ脱・・・・・・いけないそれはおいておきまして。さてと。それじゃあお仕事はじめましょうか。どんな服でも承るのがポリシーなの。
依頼者は女子高生。恋の相手は同じ高校の先輩みたい。マルケーで通学時、一駅分だけ一緒になる。相手とは会話したことなし、か。何この甘酸っぱさ。見詰めるだけの片想いなんて、もう何年前に燃えないゴミに出したことか。
片想い。それもどこにでもあるような。ぶっちゃけ服でどうこうできるって話じゃないわ。けれど彼女は服に頼った。だったらしてあげられる事は1つだけ。彼女が 信じるに足る「恋が叶う服」を作るの。恋ってね、告白しないと始まらないのよ。だから告白しないわけにはいかない、そんな服を作ればいい。
お守りに相応しい布を使おう。流れ星の流れる布のワンピースとかどうかしら。紺色で清楚、比較的安価。女子高生には丁度いいわ。ざくざく切ってざくざく 縫って、戦闘服を調える。
星が流れる。後悔少なめに戦えますように。よし、終了。あっという間に出来上がり。

カランカラン。
ドアの音と共に女の子が駆け込んできた。
「わーん」
泣いている。たじろぐバイト君。あ、この子もしかして。
「なーに?失恋?」
声を掛けた私を睨んだ。その真っ黒なおかっぱに流星のワンピース、よく似合ってるじゃない。さすが私。
貴方、恋が叶う服のお客様ね。奥に通して紅茶をクッキーをだすと、少し落ち着いてきたようだった。女の子は顔を赤らめる。そりゃ恥ずかしいよね。さてと。
「告白できた?」
「でもダメでした」
「できたならよかったじゃない」
「よくないです。私は恋が叶う服をお願いしたのに」
知ってる知ってる。
「この服すっごく可愛くて、これならってさっき告白しました」
「そしたら?」
「君のこと知らないから付き合えないって」
まーそうよね。可愛いからとりあえず食っちゃおう系の相手じゃなくて良かったじゃない。
「恋が叶う服をお願いしたんです。恋が叶わないなら約束違反です」
うんうんそう言うと思った。
「で、諦めるの?」
女の子は不思議そうな顔をする。
「だって断られて」
「好きってそれで終わっちゃうの?」
女の子は黙り込んだ。
「あなた今回、知らない人から告白してくれた人に格上げされたのよね?」
「そうですけど」
「なのに諦めちゃうの?」
「諦めないってありなんですか?」
「ありなしって話じゃないもの。気持ちってそうなるようにしかならないじゃない」
女の子は考え込む。
「私、好きです。諦めたくない」
「じゃ、それでいいんじゃない?」
「いいのかな」
「だから今回、あなたがしたのは失恋じゃない」
「じゃあなんでしょう」
「告白っていう交渉。合意には至らなかったけど決裂はしてないわよね?」
女の子は考え込む。
「えーでもなんか騙されてる気がする」
笑ってる。
「はいはいご期待通りの結果が出なかった事は謝るわ。そのかわりいつでも来てよ。お茶くらい出してあげるわ」
カランカラン。女の子は帰っていった。
実はあの子に話していないことがある。今言ったって言い訳にしか聞こえないし、逆効果だから言ってない。
「恋を叶える服」
実は私としては大成功だったりするのよね。あの服のお陰であの子は気持ちを伝えられた。気持ちを伝えることを覚えた。それが出来れば、いつか必ず、あの子の恋は叶うはず。今この恋じゃないとしても、あの子の恋はいつか叶うの。言葉にしないと伝わらない。それさえ解れば、いつか、恋って叶うのよ。
なーんて言ったって今だと言い訳がましいじゃない?言葉には旬ってものがある。この言葉を最高の状態で食べて貰うためには、もう少し熟成が必要なのよ。だから今、一番大切なのは、あの子との関係を繋ぐこと。それには成功したみたい。いつかウェディングドレスの注文ゲットするわ!

「僕びっくりしましたよ。こういう事、よくあるんですか?」
バイト君が聞く。
「あるわよ?っていうか無茶ぶり注文は殆どがこんな感じかな」
「仕立屋って大変なんすね」
甘いなバイト君。この街では、仕立屋が仕立てるのはその人の人生よ?
だからそれくらい当然なのよ。

【このお話はツイッター内での企画『空想の街』で書いたものです】