小説より奇なの?

「面白い本もないし夢でも見るわ」そう言って妻が眠りについてから二年。
妻を毎日見舞う彼女に僕が恋心を抱いたところで何の罪に問われよう。
陽だまりのようなその笑顔に今こそ伝えたい。
「好きです」驚く彼女。
「実は私も」「面白そうなお話ね」
起き上がる妻。物語が、幕を開ける。

「や、やあおはよう、眠り姫」
間抜けな僕はその時、彼女の手をしっかりと握りしめていた。
「あら。てっきり私、人魚姫になったのかと思っていたけれど?」
とても泡には還りそうもない、妻の凛とした面差しに胸が騒ぐ。
「せっかくお目覚めのところ悪いんだけれど、一人でジュリエットでもやっててよ。ロミオは私が貰ってく」
いつもの優しい笑顔とはうってかわって厳しい顔の彼女が力強く僕の手を握り返した。
ねえ。それってつまり君は僕を、僕のことを?
妻の言葉よりも恋の成就の予感に震える僕の手を引き、彼女は外へ向かって駆け出す。
振り返ると妻は追いかけてくる様子もない。
ただ静かに、手を振っていた。

「行っちゃった」
本当は私、知ってたいた。彼女があの人のことを好きだって。
彼女の気持ちに気づかぬ振りで、彼と結婚したのは私。
けれど、私の片想いを強引にカタチにしてしまった結婚生活は思うようにはいかなくて。
私も彼もなんとなく行き詰まっていることは知っていたのに解決できなかった。
はやく開放してあげたい、そういう気持ちはあったというのに、なかなか決意できなくて。
ゴメンナサイ。
「罪悪感とか持たないといいんだけれど」
あのお間抜けな僕ちゃん、優しさだけが取り柄の優柔不断男だから。

さてと、私も新しい王子様を探さなくっちゃ。
塔の上で髪を伸ばして待つ作戦と、ガラスの靴を仕掛けに行く作戦。
どちらが効率いいかしら。