ソラクジラ

準備はできた。大きな大きな大きな網。
時計塔のてっぺんが一番だけど、それじゃ大人に止められるから。
空飛ぶクジラ、ソラクジラ。僕はあいつを捕まえる。
南の空の雲が消え始めた。海の見えるこの丘は風が強い。スカートを押さえるあの子。
「帰ろうよ」
って。
女は黙ってろ。僕は網を構えた。
風が強まる。あの子は泣き出しそうな顔でしゃがみ込んだ。
見えてきた、ソラクジラだ。大きい、大きい。太陽が顔を隠す。僕は網を振りまわした。
くそ、もう 少しなのに。
岩に登る。届かない。ソラクジラと目があった気がした。僕は尻もちをつく。
クジラの腹がすーっと通り過ぎていった。

「それでクジラは捕まったの?」
クジラが通り過ぎるのに見とれて話が中断してしまった。
「ううん。かわりにその子はママを捕まえました」
「え?パパな の?」
「そうよ」
驚いた顔の娘。
「次のクジラの日いつかな」
「どうして?」
「私も網準備しとかないと!」
一体何を捕まえるつもりやら。

【このお話はツイッター内での企画『空想の街』で書いたものです】