野生自動車


野生の自動車は溜息をつく。
渋滞に従順に従い列をなす、飼いならされた車たちとはまるで話が合わない。
折角のこの足、周りを気にせず思う存分走りたいの に。
今日も不完全燃焼。
彼は夢見る。
昔一度だけ走った高速道路のことを。
ただまっすぐに前だけを見て走った。時速100㎞の夢。


3、2、1、GO!
バーが上がった瞬間始まる自由。
本線合流、時速80、100、120㎞。野生の自動車、風になる。
その車左によって止まりなさい。
赤いサイレンに迫られ逃げる彼。追う彼女。
彼はそのうち嬉しくなった。
共に走ってくれた。
恋に落ちるのに何の不思議があるだろう。


彼女に会いたい。
野生の自動車は高速を走る。愛する彼女は覆面パトカー。
会うために、追われるために、今日も暴走する。
見つけた。カッコイイところを見せたくてアクセルは全開。
次に捕まればしばらくはもう走れない。けれど。
共に走りたい。その気持ちだけが彼を走らせる。


野生の自動車はスクラップ置き場で星空を眺める。
高速道路で暴走して大破。けれども彼は幸せだった。彼女に会えた。
例えこのまま朽ち果てようとも何の未練があるものか。
恋は一方通行だった。けれど。彼女の幸せを祈る。
彼の足元、粉々になった赤いサイレンの欠片に彼は気づかない。